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政策と提案
2023/5/9 更新
2023年5月臨時会 議案審査特別委員会 討論

2023年5月9日

2023年5月臨時会
議案審査特別委員会 討論

日本共産党奈良市会議員団の井上まさひろです。
 
議案第60号「和解について」反対し、請願第3号奈良市新斎苑用地取得にかかる損害賠償請求事件に関する奈良地方裁判所の和解案の否決を求める請願書に賛成します。以下理由を述べます。
 
第一に、現在の地方自治法における住民訴訟のしくみは2002年の改正によって大きく枠組みが変わりましたが、和解は想定していないという当時の政府答弁の趣旨を踏まえた対応が求められると考えます。
 
地方自治法改正から20年以上経過しましたが、住民訴訟におけるこの2段階訴訟制度の下では、様々な問題が顕在化してきたと思います。
首長が被告原告となった今回のような場合、債権を回収する役割と債権を支払う役割を同一人物の中に求める構造になっています。2つ目には住民が起こした訴訟なのに第2段階の訴訟では住民がまったくかやの外におかれます。3つめには前の訴訟で損害賠償額は確定しているはずなのに、第2段階で和解などの方法でその内容が変更したり、くつがえすことがありうるという問題があります。
 
こうした問題がありますが、法律としては実際に動いているわけであり、その枠組みで考えることは当然ですが、法改正の趣旨を踏まえた対応が求められると考えます。
野党側の今述べた懸念を踏まえて、総務省は、第一段階の訴訟と第2段階の訴訟とは一体のものであること、第1次の訴訟の効力は第2次訴訟に及ぶこと和解は想定していないことなどを繰り返し強調しています。
ところが今回の和解案をめぐる市の答弁は、結局、裁判所の判断であること、第1段階と第2段階の裁判は別ものだ、第2段階は民事だ、和解は可能だというという考え方で貫かれています。
しかし本件はいわゆる私人と私人の民事訴訟ではなく、行政訴訟です。行政コントロールの手段としての住民訴訟です。私人間の損害賠償訴訟とは異なり、和解はなじまないと思います。
 
せっかく住民訴訟において住民側が勝訴しても、本件のように第2段階を私人間の民事訴訟と位置づけ、被告が申告した支払い能力を基準として裁判所が和解案を示し、議会が司法の判断という理由で受け入れたら、債権の放棄が成立するという、悪しき前例を作る事になります。全国初の事例として、今後、損害賠償請求事件が争われたときに、奈良市の例を参考にして同様の対応が検討されかねません。住民訴訟制度の形骸化・空洞化につながる危険があると考えるものです。同時に住民訴訟制度における2段階訴訟について法改正も含めた見直しを強く求めるものです。
 
第二に和解の根拠づけの問題です。
第2段階の訴訟は債権回収するための裁判ですが、その裁判中に和解という形で債権放棄することは地方自治法改正論議では想定されていない上に、和解提案の根拠は主に2つ(合併特例債活用による負担軽減、早期供用による市民の負担軽減)挙げられています。
 
しかし確定判決では、そうした事情を考慮したとしても不動産鑑定価格の3.3倍の価格で土地を買収したことは市長の裁量権の逸脱または濫用に当たるとして、損害賠償義務を認定しました。和解案は最高裁が退けた根拠を根拠にして提案しています。また合併特例債の活用や、新斎苑の早期供用開始による市民の負担軽減は土地売買契約の後発事象であり、損益相殺になじまない他事考慮だと考えます。
 
第三に議会が和解案を受け入れた場合、逆に受け入れなかった場合、それぞれのメリット・デメリットが特別委員会でも議論されましたが、地方自治における直接民主主義の重要な柱である住民訴訟を形骸化させない、骨抜きにしないことを超えるメリットは他にないと考えます。
 
最後、第四に市長は損害賠償請求を受けた場合の備えを一貫して怠ってきたという問題があります。
2年前の令和3年3月9日の定例会、この定例会は2月に大阪高裁で住民勝訴の判決が出ていた時期であり、前の任期4年間最後の予算議会であったことから私は本会議で次のように質問しました。
 
「わが党は2016年9月定例会で特別職の退職手当をゼロにする条例が出されたとき、重い責任があり、多額の損害賠償がありうる、中核市47市で特別職全員退職手当ゼロというところは一つもない、行革の姿勢を示すというならゼロではなく減額でも市民の理解は得られるはずだと反対しました。とりわけ今回は、新斎苑の土地取得をめぐる裁判の結果によっては損害賠償を受ける可能性が現実味を帯びてきた。こうしたリスクへの対応という意味でも退職手当ゼロという公約は見直すべきではないか」
 
市長はどう答えたか。
 
一般論としての必要性はお認めになったうえで
「現下のコロナ禍の中で大変困窮され、苦しい思いをされておられる市民の方々の痛みに寄り添いたいということもあり、前回に引き続きまして退職手当はいただかない」と答弁されています。
 
退職金は受け取らないという公約とリスクに備えることを両立させるためには、例えばいったん供託し、何もなければ市長をおやめになったあと奈良市に寄付する、今回のように損害賠償が求められた時には使うという方法もあると思います。報酬審議会に諮って様々な角度から検討してもらうという方法もあります。
3期分の退職金を自ら放棄する一方で、今回のように損害賠償を求められたら、議会に権利放棄を認めてくれというのは通らない話だと考えます。
 
以上で討論を終わります。